デッキ構築の自由を損なうカードの是非
こんにちは、サイとです。
5月31日からレート戦を実装したことで、平日の試合数が増加しました。一方でカジュアルゲームが減ってプレイヤーは勝敗に対してシビアに感じているでしょう。
【2022.05.31】レート戦「永夜抄サイクル」が始まります
毎週日曜日の交流会ではカジュアルな試合を行っています。
肩の力を抜いて遊びたい人は、ぜひ交流会へ。
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先日の交流会にて、参加者の一人からある意見が出ました。
それは「蓬莱の樹海」はデッキ構築の自由を損なうという意見です。
当日は明確な回答を出来ず申し訳ありませんでした。
これについて明確な回答が難しく、改めてこの記事に変えてお答えします。
今回の開発秘話はデッキ構築の自由を損なうカードについての読み物です。
リキャストリフトをより深く知りたい方や今後のカード開発が気になる方、さらにはゲーム制作を志す方へ届けばと思います。
「蓬莱の樹海」とは何か
【展開中】あなたのライフが0になった時、敗北する前にライフを1回復する。【展開中、相手のメインフェイズ終了時】難題-相手は自身の展開中の全力札1枚を控え札にしても良い。そうしなかったなら、このカードはあなたのターン終了時まで「リフト不可」を得る。【回収時】このカードを控え札にする。
このカードは2022年5月31日に追加された新ファイター「蓬来山輝夜」が持ちます。
テキストは少し遠回りな書き方をしていますが、直訳すると相手のデッキに全力札を入れる構築を強いるカードという意味です。
つまり、相手のデッキに全力札がないなら、この「蓬莱の樹海」がある限り、輝夜は敗北しません。
リキャストリフトでは全力札を入れない構築が存在しますが、輝夜を相手取るなら全力札を入れなければ勝ち筋が失われるのです。
このカードは壊れカードか?
運営は意図して壊れカードを制作し、強引に環境を変えようとすることは、前回の制作秘話でお話しました。
明確に回答しておくと、壊れカードという認識はありません。
なぜなら強引に環境を変えるほど、現在の環境に問題は無いからです。
もちろんリフト不可のコストを見誤って、思った以上に強いカードを生んでしまったことは忘れていませんよ!
(それに、これは5月31日の時点で解決しています)
現在の環境を運営の視点で言うなら、新ファイターの研究期間と言えます。
この記事も新ファイター研究のお役に立てれば良いのですが。
何のためのカードか?
蓬来山輝夜の持つ難題は相手のリキャストゾーンに特定の種類のカードを要求し、相手がそれを控え札にしなければ能力を発揮します。
「蓬莱の樹海」の場合、全力札です。
他のカードは攻撃札、行動札、誘発札、設置札、通常札をそれぞれ要求します。
要求に答えられないのは先制札のみです。
このことから、輝夜はビートコントロールに対するメタファイターだとご理解いただけるでしょう。
矢印の方向に対し、メタを発揮する |
つまり、輝夜はコントロール軸が強いファイターです。
そして全力札を入れない構築はすべてのデッキタイプに存在します。
全力札を入れない構築に対する圧倒的なメタカードとして位置するのが「蓬莱の樹海」です。
さて、今回の議題が明るみになったと思います。
デッキ構築の自由を損なうカードとは、メタカードです。
メタカードはデッキ構築の自由を損なう
「蓬莱の樹海」はデッキ構築の自由を損なうカードであるか否か。
私は、それはその通りだと考えています。
そして、「蓬莱の樹海」にかぎらず、あらゆるカードがある程度のデッキ構築の自由を損ないながら存在しているとも考えています。
また、これは変更しないという意思表示ではなく、現状の認識を明らかにするための文面です。
軸とケアの対立
大半のプレイヤーは少なからず「こういうデッキにしたい」という意思を持っており、試合中は理想的な動きが出来ることを望んでいます。
もちろんそうでないプレイヤーもいますが、そうしたプレイヤーはごく稀です。
「こういうデッキにしたい」と思った時に意識するのが「軸」です。
デッキの性格、あるいはコンセプトと言い換えても良いでしょう。
つまり軸は「どうやって勝つかを定める考え方」です。
本作は試合の直前にデッキ構築するシステムを持ちます。
『桜降る代に決闘を』や『ガンナガン』と同様のデッキ構築型カードゲームです。
『東方リキャストリフト』では最初にファイターを選んで、ファイターの持つカードの中からデッキを組みます。
15分でわかる東方リキャストリフトより引用 |
ファイターには得意・不得意があります。
得意だけを押し付けることが可能なら、軸を全面に押し出したデッキを構築すれば良いですが、逆に不得意を押し付けられる場合は、「ケア」を意識しなければなりません。
ケアとは、相手の得意に対抗したり、自分の不得意を穴埋めするカードと戦略です。
言うなればケアは「なんとか負けないようにする考え方」になります。
軸を押し通すか、ケアを意識するか。
非常にシビアな二項対立です。
メタカードはある軸を阻害する
例えば、魔理沙の彗星「ブレイジングスター」はグレイズ無しデッキの構築を阻害するメタカードです。
同じ理由でアリスの「グランギニョル座の怪人」やパチュリーの覚醒札が持つ火水木金土符「賢者の石」もまたグレイズ無しデッキに対するメタになっています。
他にもグレイズ無しデッキは相手に心理的安全を感じさせ、攻撃を受けやすい側面もあります。その分、グレイズを持たないファイターは強力な打ち消し能力や妨害を持っていることがほとんどです。
グレイズを入れない構築はリスキーという認識が広がり、今やほとんどのプレイヤーが自ずとグレイズを入れた構築をしていると思います。
でも、これはケアに他なりません。
火力が高いカードはグレイズ無し軸を完全に阻害していると言えます。
メタカードは必ずある軸を確実に阻害し、戦略の幅を狭め、デッキ構築の自由を縛り付けるものです。
それはデッキ構築型カードゲームにおける戦略の一つだと考えています。
勝てない組み合わせについての補足
「蓬莱の樹海」の登場によって全力札を入れないデッキはほぼ勝てません。
それは全力札を元から持たないファイターの排斥に繋がるでしょうか?
それは否です。
なぜなら、全力札を元から持たないファイターはサポートに特化したファイターで、一つのサイクルに1体しか追加されないからです。
2022年6月現在で全力札を持たないファイターはパチュリーと幽々子だけです。
2体ともそのサイクルのファイターをサポートします。
パチュリーはリキャストタイムの重たいレミリアやフランのサポート、幽々子は手札が枯渇しがちな妖夢や紫のサポートです。
その他のファイターと組み合わせることを前提にしたファイターだけが全力札を持っていません。
今後もそのように作る予定です。
「蓬莱の樹海」をケアできない組み合わせは少ないと考えています。
メタカードはTierランクをかき乱す
「蓬莱の樹海」はなぜ登場したのか。
いや、蓬来山輝夜はなぜ2022年5月の段階で登場したのか。
それはレート戦の実装と大きく結びついています。
taharasan様のおかげでレート戦の実装が予想よりも早く完了したので、2022年9月に追加予定だった輝夜を先んじて登場させることにしました。
It's over 9000!というレートが下がらない方式 |
メタカードはレート戦のデメリットを和らげる
レート戦は平日の試合を促す一方で、プレイヤーを勝敗に対してシビアにさせます。
すでに研究が完了したファイターが使われるようになるはずです。
それは初心者にとっては入りづらい環境になると予想されます。
初心者が参入しやすくするために輝夜を入れました。
初心者は傾向として「特殊勝利」「負けない」を意識します。
『東方リキャストリフト』における行動の難解さ |
上図は『東方リキャストリフト』の各要素を勝利に絡む行動か敗北阻止の行動かで二分し、プレイヤーの習熟度に応じて各要素がどれだけ認識されているのかを表したグラフです。
グラフを見ると右に行くほど先細りしています。勝利、あるいは敗北阻止に対して明らかな要素ほど初心者の目に留まりやすいからです。
最も認識されづらいのがデッキ相性で、これにはカードプール全体の把握と組み合わせの最適解を求めなければなりません。この最適解に対し、現行のプレイヤーによる流行を加味することで「環境」というものが見えてきます。
まだプレイヤー人数の少ない『東方リキャストリフト』では流行など存在しません。現状で環境と呼称しているものは研究途上のデッキが一時的に多用されることで起きています。それもまたゲームの一つです。
例えるなら、もっと大きなタイトルのカードゲームで、新しい拡張が発売されて数週間の何が強いか議論し合う時間が常に流れているのが、現在の『東方リキャストリフト』の現状なのだと思います。
ただし、それはカジュアルマッチのお話です。レート戦を行うと、プレイヤーは勝敗にシビアになり、勝てるデッキを選ぶようになります。つまり、単純なデッキ相性が物を言うようになるのです。そうなった時、初心者プレイヤーほどレート戦に参加しづらくなります。
そこで、RT[1]のカード連打や空撃ち展開を打ち止めにする「蓬莱の樹海」を投入しました。これらの行動はある程度、熟達したプレイヤーでないと難しいものです。
今回の「蓬莱の樹海」がデッキ構築の自由を損なうという意見は熟練者から出ており、それは新規プレイヤー優先を意識するあまり、結果的に熟練プレイヤーを軽視してしまったのだと思います。
軽視するつもりは無かったのですが、不満を感じさせてしまったことは誠に申し訳ありません。
メタカードはレート戦による初心者お断り感を緩和しますが、熟練プレイヤーに不満感を募らせる諸刃の剣なのです。
しかし、新規プレイヤーを増やそうとする限り、これの根本的な解決はできません。
メタカードを投入した目的を詳しくお伝えします。
メタカードのない環境
身も蓋もない言い方をするとカードゲームは複雑なじゃんけんです。
すべてのカードの強さが一定で、お互いに同じカードを使い、ランダム要素が無いならば、メタカードの必要ない平等な試合となるでしょう。
そうしたゲームの一つに二人零和有限確定完全情報ゲームがあり、これには必勝法が存在します。
例えば、◯と×を使った三目並べは片方がミスしなければ、かならず引き分けになりますよね。二人零和有限確定完全情報ゲームは必勝法を知らない相手に対し、一方的に勝てるゲームです。
互いに最善手を先読みさえできれば理論上は絶対に勝てるのですが、将棋や囲碁はその過程が長いために先読みが人間には不可能なのでゲームとして成立しています。とはいえ、定石を知らない相手に対し、かなり有利に勝てるゲームです。
個人的にこうした平等なゲームが好きで自分でも作りましたが、初心者が熟練者と戦っても勝てる見込みは非常に少ないものとなりました。
初心者が楽しいゲームは自分が勝てるゲームです。
一度も勝てないと自分には向いてないと思って辞めてしまいます。
それは当然のことです。
新規プレイヤーが楽しめる環境を作りたい
2022/2~5のTierランク |
一方、カードゲームは戦略が常に進化し続けます。
戦略が進化するのはカードプール全体の最適解が流動的だからです。
最適解が流動的だからこそ環境と呼ばれ、Tierランクのような強弱が現れます。
Tierランクがあることで初心者はその環境における最強デッキを最初から使えるのです。
最強デッキを使えばある程度は勝ちやすくなります。
本作は最初からすべてのカードを使えるので、最初から勝ちまくってほしいです。
レート戦のデメリットは単純なデッキ相性が克明になり、初心者が参入する余地がなくなることは先にお話した通りですが、であればそのデメリットはTierランクだけでフォローできていると思いませんか?
答えはyesです。ただし、それはプレイヤー人口が多いカードゲームならの話で、本作のようなまだ少人数のカードゲームでは当てはまりません。なぜならTierランクの反映には最低でも一ヶ月は掛かるからです。
レート戦を始める前は一週間あたりの試合データが0枚になる時もざらにあるので、Tierランクを作れない週が発生してしまいます。一ヶ月のスパンならさすがに誰も遊ばないことは無いので、ギリギリTierランクを作れます。二ヶ月なら100枚以上の試合データが採れます。
Tierランクは試合数に基づくので、試合数の少ない場面でTierランクは役に立ちません。
レート戦の導入で試合数を増やし、新規プレイヤーを呼び込み、レート戦に参戦してもらうという流れを作るため、熟練プレイヤーが培った高度なプレイングに対してメタとなる「蓬莱の樹海」を持つ輝夜を新ファイターとしました。
今までそうした意図を持ってカードを追加してきませんでした。
それで最初にあったような意見が出たのだと思います。
改めて言いましょう。
メタカードの位置づけは従来のプレイングに対する回答です。
それは新規のプレイヤーが入りやすい状況を作るためです。
また、ゲームを長期に渡って遊んでいない方を復帰させるためでもあります。
あるいは、Tierランクで下位に居るキャラが好きな人の不満を和らげるためです。
ただし、メタカードの存在は初心者が覚えなければならないことを増やします。
これは仕方のないことです。
まとめ
メタカードはデッキ構築の自由を損ないます。
しかし、新規プレイヤーを獲得するのに役立ちます。
最後にそれぞれのメリット・デメリットをまとめました。
メタカードを入れるデメリット
- 今まで使っていたデッキが使いづらくなる
- 勝てない組み合わせが出てくる
- ケアを意識しないと勝てないので軸に沿って戦えない
- 初心者が覚えなければならないことが増える
メタカードを入れるメリット
- レート戦による環境の固定化をメタカードで一時的に緩和する
- 新規プレイヤーが使いやすく、且つ勝てるデッキが作れる
- レート戦でも使えるデッキが分かりやすくなる
総合すると、メタカードはよほどのことが無い限り、入れない方が無難だと思います。
今になって輝夜を投入するのはもっと後でも良かったかもしれませんが、それはそれでレート戦のシビアさが増す問題が発生しますからね。今回はレート戦の治安を守るのを重視した結果です。
本記事はここまでとします。
良かったらこの記事や『東方リキャストリフトv114-2』、レート戦について、あなたの意見を聞かせてほしいです。
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では、いつかまた開発秘話でお会いしましょう。